2026/01/25 23:38

さらに病気は私からとても沢山のものを奪っていきました。夢や大切な人、友人、生活、ありとあらゆるものが私の人生から立ち去りました。
しかしあらゆる可能性を奪われたとしてもなお、人は運命に対してどのような態度を取るかの自由が残されています。その自由への責任を私は放棄し、大切な人を傷つけ、人生を自ら放棄していたのです。
鬱病はよくメンタルヘルスに分類されますが、脳内神経伝達物質のセロトニン、ノルアドレナリンが上手く機能しない病でもあります。
精神的な症状には虚無感、希死念慮、憂鬱感など沢山ありますが、
身体的な症状も強く、吐き気や頭痛、動悸、不眠など、中でも離人感と呼ばれる症状が私を大きく苦しめ、後の世界の見え方を大きく変えるものでした。
私が感じていた離人感とは私と物、世界の間に濃霧が立ち込めているような感覚。すべてのものが色褪せ、遠くにあるように錯覚し、自己の身体や思考、感情などが世界から物理的に切り離されている感覚です。精神的な感覚というよりは身体的に感じるのです。
それは自己が消失する感覚であり、ここに居るはずなのに居ない感覚と言えましょうか。今まで知っていたはずの自分も世界(家族や大切な人たち)も失ってしまったような苦しみでした。
そうして何年にも渡る闘病生活と共に、自分の存在する意味、世界が存在する意味を取り戻すための芸術活動が初まりました。
その闘病生活はとてつもなく暗く長い夜でしたが、今となっては何よりも美しい夜でした。
濃霧とは掴みどころのない人生が私たちに出す問いです。その問いは苦悩そのものでもあり、美しさでもあります。
苦悩を迎え入れてこそ人生は美しさを帯び、深く静かに柔らかなものへと変わります。苦悩とは一瞬の幸せをより一層色濃く意味あるものとするギフトなのかもしれません。
私は先ほどの感覚を表現する際に使っていた言葉、 “濃霧”をそのままブランドの名前にしました。
濃霧に包まれている現代を生き抜く皆様、そして人と違うことを恐れているあなたに、そこに意味を見出せるよう心から願っております。

インスタグラムで映像や投稿の写真のみで拝見していた男前なお兄さん。
実物もとてもカッコ良い方でした。
尖った作品に反する様に、物腰は柔らかく、笑顔もとても爽やか。
天は何物彼に与えたんだろう。と羨ましく思えるほどのルックスと才能。
しかし、Noumuをスタートする前のイタリアでの生活はとても苦労が多かったと言います。
まるで映画のハリポッターに出てくるような「物置部屋」みたいな部屋での生活、東洋人差別、食べ物が合わなかったり、病に悩まされたり。起死回生までには時間がかかったとのこと。
それから数年後。日本に帰国した時に彼が選んだのは地元の北海道での生活でした。やはりこの土地での生活がとても心地が良いそうです。

店内に入り、右側にはカフェ、左側には阿部氏のアトリエが設けられていました。
その作業場ではパターンから縫製、仕上げまで全てデザイナー自身で行います。


阿部さんの服作りのプロセスは変わっている。
音楽家でもある彼は、まず「音作り」から始め、音からインスピレーションを得て、洋服作りへと移行していく。
音から服を形作るという、自身の核をなすクリエイティビティーは彼にしかできない創作過程なのではないでしょうか。

故にその時の感情や想いを服に込めるため、自然と「1点もの」の洋服が作り出されていきます。
一旦そのタームを終えるとあまり同じアイテムは作らないのだとか。つまり基本的に量産はできないということ。

Maison Noumuの店内には世界に1つだけの作品が並びます。
選び抜かれたヴィンテージの生地や、基本イタリアを中心とした高級レザーを用いたアイテム。
アトリエで阿部さんのコレクションのデザイン画をまとめた冊子を見せてもらいました。

幼少期から、絵が得意だったそうで、そのデザイン画だけでも、作品として成り立つほど素晴らしい。


また、海外で過ごすうちに周りの人々は自分の伝統や文化を大事にしているのを感じ、「日本人としてのアイデンティティ」を再認識した彼はデザイン画のモチーフに「能面」などを使う様になったそう。
このデザイン画は「葵上(あおいのうえ)」という舞台をモチーフにしているとのことです。



デザイン画集の中には、彼が集めた中世ヨーロッパの絵画の断片や、レースの切れ端など様々なモチーフが手書きの絵と共にストックされ、中には「kohaku」というシリーズがあったり、彼の頭の中を覗いているようでドキドキしながらページをめくっていた。
阿部さん曰く、絵を描くのにはかなりの時間がかかるそうで、このクオリティを仕上げるためにどれだけの時間と魂を込めていたのか、畏怖を感じることさえあったのだが
彼はとても気さくで「どの写真でも載せてください」とのことだったので、有り難く共有させていただきたいと思います。
服1着1着に短い音楽が連なっているそうで、NOUMUの服を手にする幸福があれば、ぜひその音楽と共に味わっていただければと思います。
明日は待望の作品紹介。
皆様にNoumuの素晴らしさをお届けしたくてたまりません。
お楽しみに。

